働き方改革?ハタラケル改革!@フットケアから始めよう

企業に足の臨時保健室を開設したところから始まった“ハタラケル改革”のストーリーです。

第2話 解決のタネ

 先週、サワイくんが“もう辞めたい”と愚痴っていた会社へ、1人乗り込む。従業員数32人。あまり乗降の多くないJR駅から歩けばたぶん30分以上はかかる。駅まで迎えに来てくれたサワイくんの車で向かった。


「ちょっと癖のある社長だから、誰でもカモーンにならないんだけどさ」
「大丈夫。私も癖あるから」


何が大丈夫なんだか。


 社長室に通される。あまり重厚感のない室内。社長用なのにごく普通の事務机と椅子。小さめの、だけど品のいいダークブラウンの応接セットが社長机の対角面にある。促され、ちんまり座って簡単な自己紹介などする。

 

本題に入る前のアイスブレイクを好む人と好まない人がいるので、様子を伺っていると、唐突に切り出された。
「サワイから聞いたよ。研修やるの?」
「私が提供する研修でお役に立てるものがあればさせていただきたいです」
白髪をすっとかき上げて、ふん、と言った。


「今までずいぶん研修講師を呼んだんだよ。解決のタネを求めて。ここ数年は何にもやってないけど」
「どんな内容の研修をされてたんですか?これからは何かご予定はないんですか?」


「ない」


しばし沈黙。あれ?以上で終了か?


「誰もタネなんか持ってないんだよ、高い金払っても、どこにもタネなんかない。結局自分たちの手で何とかしなきゃいけない。もう外部には頼みたくないかな」
「そうですか」


どんな成果を望んでの研修なのかと聞こうとしたら、社長が続けて言った。
「高いところは成果も出ないのにべらぼうに高いし、安いところはボランティア精神よろしく生ぬるい。まちなおし、社会なおし、企業なおし、同じ“善意”でやられるなら迷惑だ」


 社長は応接テーブルに足をのせて、
「ああ、あなたは足なおしね。どうやるの?ほら」
と言った。


「その地にあったタネを見つけるのは大変ですね。土壌が悪けりゃせっかく持ってきたタネもまけない」
特に何の皮肉のつもりもなかったが、後で考えると皮肉以外の何物でもない。


「そもそも私はタネなんて持ってないです」

「じゃあなんだ?成長を促す太陽ですなんて言ったら追い返すぞ」


それを言わなきゃ追い返されないらしい、ラッキー。


ハードカバーと新書、さらに本の高さ別に整頓された本棚。本田宗一郎松下幸之助
いった文字が見える。社長机の横には、鮮やかな真紅のブリザーブドフラワー。全部同じ方向を向いてきれいに研がれている10本ぐらいの鉛筆。そして、従業員から贈られたらしい還暦のお祝いの色紙が飾られている。


私は企業の経営状態なんて評価することはできない。研修の費用効果の計算の仕方もわからない。

 

理学療法士ですから。

 

だけど、“もう”外部には頼みたくないといった社長が、社長室でふんぞり返って外を見ていただけなんかじゃないことはわかる気がした。どの社長とも同じように、下げたくもない頭を何度も下げて彼は今ここにいる。


「まあ、最近膝に作りもの入れた(あとから人工関節のことだと知った)職員もいるから、足腰の相談に乗るって言うなら、自由にやってよ」


 帰りがけに社長はそう言って、関わることだけは決まった。