働き方改革?ハタラケル改革!@フットケアから始めよう

企業に足の臨時保健室を開設したところから始まった“ハタラケル改革”のストーリーです。

第20話 かび臭い理想のカフェスペース

もともとかび臭い会議室。

 

その中にあるカフェスペースは、“足の臨時保健室”が開設されない日に使用可となっている。

 

初めは、電気ポットとインスタントのコーヒーと紙コップしか置いてなかったのに、色々な種類の紅茶のティーパックやら、アメやチョコまで置くようになった。

 

今まで各自の机で食べていたお昼のお弁当も、ここに持ってきて食べるようになったと聞いた。

 

マユちゃんとエリさんが一緒に食べているのかどうかはわからないけれど、ここが、みんなが落ちつけるスペースとして、困っていることを話し合えたり、無駄な習慣を変えたり、お互いの身体を気遣える会話を交わせる場所になってくれたらいいなと思う。


その時にはもう、“足の臨時保健室”はいらなくなっているのかもしれない。

 

まだまだ“身体壊すあるある”は残っている。

ハラハラしながら見守ってくれる課長と、

無関心を装ってくれている社長に感謝しながら、

今日も保健室開設中。

第19話 社内で一番落ち着く場所

久しぶりのワークショップ。

 

“足の臨時保健室”が割と込み合うようになったため、『社内で一番落ち着く場所と、そこに何があったら落ち着くか』のテーマでディスカッション。


これも、“落ち着く場所があることは良いこと”という仮の理想からのテーマ。

 

それが覆っても構わない。毎日が生き残りをかけた戦場なのに、落ち着く場所なんて・・・と考える人や企業があっても良い。

 

「やっぱり自分のデスクかな。集中した後にコーヒー飲むと落ち着く。おいしいコーヒーがあればそれでいいかな」
「女子トイレかな、世間話でストレス発散」
「作業場だな。自分の場所、持ち場って感じ。俺のテリトリー。ただし俺の作業道具は誰にも触ってほしくない」

 

相変わらず少しずれながらも、それぞれから出せるようになってきた。


課長が
「自分の車の中」
と言ったところで、みんなが笑う。

 

昼休みに1人で車内でタバコを吸っているのをみんなが知っているからだ。しかも奥さんには禁煙してることになっているというのも、最近の話題だったようで、盛り上がる。

 

「私、1階のトイレ」

 

マユちゃんがぼそっとつぶやいた。


ちょっとの沈黙。

 

ここは3階。マユちゃんがPCに向かっている部屋は3階にあり、1階は倉庫と作業場。トイレは各階にある。


なぜ1階のトイレ?

 

「1階のトイレには何があるの?」
ちょっとストレートすぎる問いだったかと思いながら答えを待つと


「3階だと、入っているときに人のうわさ話とか悪口とか聞こえて、いやな思いするから1階に行きます」


なんでも自分の責任だとか、自分が能力ないからだとか、自分を低く評価してしまうマユちゃん。他の人のうわさ話も、自分事としてとらえてしまっていたのかもしれない。

 

エリさんと、エリさんと同年代のユカリさんが顔を見合わせてくすっと笑う。このちょっとした反応さえも、マユちゃんを傷つけちゃうんだろう。

 

社内には、職員食堂もなければ休憩室もない。女子トークの名所の給湯室もなく、事務室の端っこに小さな台所がついているだけだ。

 

2つに分かれた事務室と、会議室2つ(そのうち一つに保健室はある)と、作業室。あとは応接室をかねた社長室。一つ一つの部屋は大きいが、くつろげたり、落ち着いたりできる場所はない。コーヒータイムは各自各机で。それが当たり前。

 

「別にシオダさん(マユちゃんのこと)の悪口言ったことはないわよ」
とエリさん。
「仕事できてないときは直接言ってるでしょ。陰でなんて言わないわよ」


その発言、私のせいにしないでとばかり、エリさんが話す。エリさんのPCの左上にはイライラシールが付いている。あー、マが悪い。

 

マユちゃんは反論しない。今日は萎縮気味。

 

男性職員に緊張感が見える。初めてやったワークショップでは、こんな反応なかった。みんながみんなに無関心。雰囲気が悪くなっても、無関心のままでいれば被害なしという見解。少しづつ、ほんの少しづつ関係性が変わっている気がした。ただし、この状態は完全にアイスメイキング(笑)

 

「スギタさん、何があればっていう答えにどんなものを期待してたの?」
と課長。ナイスフォロー。


「課長、出かけたときに、喫煙室で知らない人と話したり仲良くなったりなんてことないですか?」
「ああ、あるある。大事なことは喫煙室で決まるんだよ(笑)」
「そういう場所って、大事だなって思います。1人でタバコ吸ってるのに、横に誰かがいる。今、各自各机でコーヒータイムしてるけど、喫煙室効果みたいに、コーヒー飲めるスペースがあるとちょっといいかな・・・なんて思ってました」

 

想定していたプログラム通りにコトが運ぶことはまずない。アイスをとかすつもりが強固なものにしてしまうことも・・・。でも何もしないよりは、何かが動いた方が良い。仕事は続く。明日も明後日も。

 

“足の臨時保健室”の斜め向かいに、カフェスペースができたのは、それから1か月後。その会議室は完全に会議ができない会議室になった。

 

第18話 詐欺もしてます

“足の臨時保健室”開設中。

 

でも、足の問題を打ち明けに来る人はずいぶんと減った。というか、足の問題にかこつけてくる必要がなくなり、
『生理痛がひどいから、保健室で仕事させて』とか
『二日酔いで酒臭いから課長の横で仕事できない』とか
まさしく小中学校の保健室と同じような位置づけに変わりつつある。

 

「もっと新規事業について積極的に考えないとヤバいと思うんだけど」
ハルヤマさんは40代。


「これまでの、古いつきあいから取れていた仕事が継続するのは、せいぜいここ2、3年。何か手を打たないとと思うのに、上司は聞く耳持たないし、変える気ないし、当然若手は危機感ないし、今から転職の準備をしようと思ってるんだよね。これからはどんな職業が良いと思う?」

 

これは“足の臨時保健室”では扱えない。とは言っても、話を聞くことだけはできる。

 

話す方も、ここで解決してくれるとはハナから思っていないのだから、とりあえずゆっくり耳を傾ける。


聴きながら、複数の課題を整理したり、課題と感じているものを分解して言語化したりする。

 

言葉遊びに近いのかもしれない。同じ言葉でも、人によって意味が違う。捉え方が違う。言語化してはじめて、自分なりの整理が出来たりする。

 

これからどんな職業が良いのかなんてわからない。たいした情報もあげられない。もしかしたら、ハルヤマさんが聞いてほしいことは、本当は他にあるのかもしれない。

 

でも、少しでもリラックスできるように、オレンジスィートを使った足のアロママッサージを提供しながら、ハルヤマさんのモヤモヤを聴く。

 

「心が晴れるオイルなんです。これ」

「いや、詐欺でしょ、スギタさん」

 

このモヤモヤを共有できると良いよね。きっと。

第17話 靴箱汚れ事件

 

社長がポケットマネーで靴箱を買ってくれたおかげで、通勤用と内勤用の靴を分けることが習慣化された。

 

内勤の靴も、ただ楽なのが良いというのではなくて、自分の足と仕事の内容によって選ぶということをほとんどの社員に理解してもらえたと思う。

 

同時に、嬉しいことに欠勤の数が明らかに1年前とは違うと報告を受けた(*^-^*)

 

もちろん、“足の臨時保健室”の効果というわけではなく、単なる偶然なのかもしれないし、さらに、もし仮に優位性が認められたとしても、足へのアプローチに対する効果ではなくて、その関わりから派生した二次的効果のほうだろうと感じる。

 

特に、シールの導入あたりから、社内での会話が増えたとサワイくんが話していた。

 

自分たちが課題と感じていることを、上層部に頼るのではなくて自分たちで工夫してみようと話す、動く、試みる。きっとそのプロセスがあるからこそ、会話が増えたと感じるんだろう。

 

・・・で、そんな変化を感じていたある大雨の日。

 

「男性職員も使うようになったから、靴箱が汚れてイヤなんだけど」
靴箱の周りにモップをかけながら、エリさんが言った。


「汚れと男女は無関係でしょ」
珍しくサワイくんが口を尖らす。

 

「玄関マットで1回汚れ落としてから靴を履き替えてよ。それに置き方雑だしさ」
「靴箱掃除、当番制にします?」
リナちゃんがエリさんを手伝いながら提案する。

 

「はあ?使ってない俺は当番しなくていいよね」
なんだか、小学生レベルの男女あるあるになってきた。口うるさい女子VSだらしない男子。

 

マユちゃんが付箋に“靴箱汚い”と書いて貼った。
すでに壁の模造紙は“身体壊すあるある”からはずれて、カテゴリを問わない課題全般に広がっている。

 

「もう、スギタさんが余計な提案するから余計な仕事増える~」とカマダくん。


私が提案したんだっけか?あれ?靴箱のきっかけってなんだっけ?・・ととぼけてみる。

 

三者が関わるメリットって面白い。自分たちにとって良い成果だと思えることにつながったものは自分たちの功績に、悪い成果につながったものは第三者のせいにできる。

 

・・で掃除どうすんのよ。


「それぞれで気を遣いましょうね」とリナちゃん。その気遣いは疲れないのかい?

 

 

次の週に行ったら、当番表ができていた。当番の中に自分の名前がないか、ちょっとドキドキしながら確認した。

第16話 御機嫌シール

“身体壊すあるある”で、まだ解決していないものがいくつかある。

 

その一つに、『一日中PCに向かっていると気分が沈んでいく』がある。

解決方法の欄には、

“1時間につき5分休憩”

“PCに向かうのは半日にして、半日は別の仕事をする”

“イヤホンで好きな音楽をかけながらPCする”の3つ。

 

でもワークショップでこれを出したときには確か、“誰も話しかけてくれないし”って言ってたはず。

 

課題と解決方法案がずれてる。

 

「このあるある付箋さ、ちょっと言葉変えない?」


模造紙の前で、誰が聞いてるともなく、声に出してみる。反応なし。そりゃそうだ。

 

みんな忙しく仕事しているというのに、暇そうにぶらぶらしている足の保健室のおばちゃんが無責任に発言して歩くのだから、迷惑この上ない。

 

「何て変えるんですか?」


やっぱり気を使うのはリナちゃんだ。エリさんはちらっとこっちを見ただけ。すぐにPCに視線を戻す。一日中PCに向かっているのは女性が多い。


「うん。気分が沈んでいくのは結果の1つなので、『一日中PCに向かっていると誰も話しかけてくれない』にしようかと」


「誰も話しかけてくれなくて嬉しい人もいるんじゃないの?実際、その日の気分によって違うでしょ。特に女子は」

営業のカマダくん、“特に女子は”は一言多い。

 

でも発言してくれて嬉しい。“嬉しい”を大袈裟に表現してみる。そこから反応してくれる人が増える。

 

「話しかける内容によるんじゃない?くだらない話には反応したくないし、気分上がらないし」


エリさん、ここで“男子はさ・・”なんて言わないでね。男女戦争勃発か。これも社内あるある。

 

「話しかけやすいようにサインとかあればいいかも」とカマダくん。
「今が話しかけ時ですよ、みたいな感じですか?」とリナちゃん。
「ナンパ待ちじゃないんだから」エリさん、発想がおばちゃん。

 

ここでも小石だけ投げかけて放置。

 

次の週行くと、付箋も解決方法も変わっていて、しかも、すでに実行されていた。複数のPCの左上にシールが貼られている。


解決方法には『その日の調子を表すシールをPCに貼っておく』で、レ点もついている。


「体調だけじゃなくてさ、『いっぱい仕事たまって限界~』なんてSOS発信も気軽にできたらいいねなんて話してこれにしてたよ」
と、サワイくんがその後のディスカッションの様子を教えてくれた。

 

ふと、トミヤマさんの「最近の若者は甘ったればかり」の口癖を思い出す。渋い顔してんじゃないかな、こんなシール見て。

 

リナちゃんのPCの左上で剥がれかけている“イマイチ”シールを直しながら思った。